本文にスキップ

低山トラベラー 大内征さんの偏愛たなべ#1

低山トラベラー 大内征さんの偏愛たなべ#1

お土産に買ったデラックスケーキを自分で食べてしまうくらい好き

 たっぷりと田辺を楽しんだ最終日の朝、決まって駆け込むのが鈴屋さん。お目当ては大好物の「デラックスケーキ」である。ホワイトチョコレートがコーティングされた抜群に美味しいお菓子で、しっとりと甘く、ずっしりと食べごたえがある。ただ、チョコが溶けては台無しになってしまうし、賞味期限のこともあるから、できるだけ帰る直前に買いたい。したがって、最終日に駆け込むことになるわけだ。朝8時から営業しているというのもポイントが高い。

 いつのことだったか、打合せの差し入れにと購入しておいたデラックスケーキ(たしか10個入りだった)を、我慢できずにぜんぶ自分で食べてしまったことがある。なにをやってんだと反省すべきところだけれど、この味を覚えたら最後、ついつい魔がさして食べてしまう。そんなわけで、それ以来は自分用も必ず買うようにしている。どんだけ好きなんだ。

雪景色の中で食べるデラックスケーキが格別だった

 ぼくの仕事は「山の魅力を分かち合う」ことで、そのために取材をするフィールドは全国各地の低山が中心だ。文章を書くことや話すことが、分かち合うための“手段”である。山の魅力を知るには、山を歩くのが一番。そして、その土地の食べ物を山に持っていくのが気分だろう。山歩きは消耗するから、とくに甘いものとしょっぱいものを行動食にするのが理想的で、地元の道の駅やお土産屋さんで物色するのが楽しい。デラックスケーキは、そうした中で出合った、ぼくの偏愛する田辺の逸品のひとつなのだ。

 そんなデラックスケーキを雪山に持っていこうと思いついた。単にホワイトチョコレートから雪山を連想しただけのつたない発想だけれど、なんだかワクワクしてしまう。高まる気持ちを胸に、つぎに田辺に行くときは忘れずに鈴屋さんに寄ろうと誓ったのだった。

 そして、昨年の暮れのこと。田辺をたっぷりと楽しんだとある朝、ぼくはいつものように鈴屋さんに駆け込んだ。もちろんお目当ては大好物の「デラックスケーキ」である。それをザックにしまって厳冬期の八ヶ岳に登ってきたのが、つい先月の極寒期。凍てつく雪景色に溶け込んでいるデラックスケーキが、思い描いていた以上に眼前の風景に調和していて、より一層のこと美味しそうに見える。マイナス20度の外気の影響なのか、ホワイトチョコレートは冷えてパリパリとした食感。これがまた通常とは異なる味わいになっており、個人的にとても満足した。きっとまたやるだろう。

はしっこ、でも味は“ど真ん中”

 じつは、朝日新聞夕刊の名物コーナー「オトコの別腹」でも、このデラックスケーキを紹介したことがある。店頭には、そのときの記事が飾ってある(はず)なので、鈴屋さんに行く機会のある方には、ぜひご覧になっていただきたい。

 その際、お店の入口近く、ショーケースの端っこに注目しよう。そこにもし「はしっこ」があったなら、あなたはとてもラッキーだ。ケーキのきれっぱしで作られたものだけれど、味は変わらずデラックス。むしろ食べやすいサイズ感が人気だそうだ。とはいえ、数には限りがあるけれど。

 ぼくは田辺に滞在しているとき、もっぱらこの「はしっこ」を食べている。

執筆者プロフィール

大内征(おおうち・せい)
低山トラベラー/山旅文筆家

歴史や文化を辿りながら日本各地の低山をたずねる歩き旅を通し、自然の営み・人の営みに触れるローカルハイクの魅力を探究。ピークハントだけではない“知的好奇心をくすぐる山旅”の楽しみ方について、文筆・写真・講演などで伝えている。

NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」のコーナー出演、LuckyFM茨城放送「LUCKY OUTDOOR STYLE~ローカルハイクを楽しもう~」の番組パーソナリティ。NHKBSP「にっぽん百名山」では雲取山、王岳・鬼ヶ岳、筑波山の案内人として出演した。著書に『低山トラベル』(二見書房)シリーズ、『低山手帖』(日東書院本社)などがある。NPO法人日本トレッキング協会常任理事。宮城県出身。

田辺のお土産情報
田辺のお土産についてはこちら