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写真家 鈴木さや香さんが感じた田辺

写真家 鈴木さや香さんが感じた田辺

紀伊田辺駅周辺を歩く

「ああ、いいなあ」 そう感じたそのあとに
脳の奥がやわらかくなっていく気がしました。

私は旅が上手なほうではありません。
写真を撮るのに不思議だと思われるかもしれませんが、
写真を撮るから得意ではないのかもしれません。

自分の稼働する領域と同時に、
訪れる場所がゆるしてくれる領域も
すごく大事にしたいと考えます。

そのため、はじめていく場所は特に緊張状態で
わりとコチコチの足で
一歩一歩踏み込むという感じではあります。
領域は場所ということではなくて、
ルールのようなもので、
そのルールが写真に大きく関わってきます。

田辺の街は
歩いて、人と話したり、
特徴のある場所を訪れていると、
なつっこさというか、
親しみやすい何ともいえない距離感に、
ゆるされた領域を超えてしまったのはないかと
足先のラインを見直すことが幾度もありました。
そして、心は違うところで
最早感動していたりするのです。

ああ、おいしい
と同時に 裏の路地

ああ、やさしい
のその前に ティーソーダ

ああ、うつくしい
が丸見えの 扇ヶ浜

単純な気持ちはどんどん膨れ上がっていきます。

田辺で過ごしていると、ちょっとしたことの
「ああ、いいな。いいなあ。」が
何度も何度も繰り返されて
やわらかく、やわらかく、猫のお腹のように
ふにゃーっとなっていくのです。

そして田辺から帰ってしまったあとも
まだしばらくやわらかで また行きたいなと思うのです。

写真:JR紀伊田辺駅周辺
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執筆者プロフィール

鈴木さや香
写真家・写真と暮らし研究所 代表理事・Atelier Piccolo店主
東京造形大学環境造形学部卒業。映像演出家 葉方丹氏、写真家 山岸伸氏に師事し2012年独立。広告写真を撮る一方で、作品を発表し、日常で空白になってしまう記憶に、やわらかく焦点をあてた写真作品の展示を多く開催している。
著作:日常写真が楽しくなるノートブックなど多数
HP:https://shashintokurashi.com/